映画『シッコ』を観る

Tuduki2007-08-21

母国アメリカを愛するが故に、アメリカに横たわる問題を笑いと怒りで切り取るドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア。その最新作『シッコ』が映すのは、先進国で唯一「国民皆保険制度」がないアメリカの医療と保険の現場。「シッコ」は日本語だとカタカナで書く「ビョーキ」の意。“イカレてる”って意味だそうだ。


ひとあし先に試写で観てきたけれど……絶句。そしてものすごく不快なキモチに陥った。
国民皆保険制度がなくて保険を民間業者に委ねているアメリカのシステムがいかに歪んでいるかを訴えている映画なのだけれど、それは当のアメリカ国民が観客だった場合のハナシ。ちゃんとした保険制度があって、病院に行けば病気や怪我を治してもらうのが当たり前の、アメリカ以外の国の観客(たとえば日本人の私)にすれば、アメリカという国は拝金主義のキチガイ集団が動かしているんだ…としか思えない映画だ。アメリカ嫌いならもっと嫌いになること間違いないし、アメリカに住んでる友人に「なんで好きこのんでそんな心根の貧しい連中の国に住むんだよ?」と詰問して日本に帰国してほしくなるような…そんな映画だった。


本来の映画のテーマであるハズの「医療や保険の社会システム上の問題」以前に、アメリカ社会は性善説に基づいてない社会なのだ…という現実にゾッとさせられた。「誰かの役に立ちたい」とか「困っている人を助けるとキモチがいい」とか、そういう人間らしい感情とは無縁の社会アメリカでは、そういう人間らしい感情を持たない連中が医者になって大儲けしているのだ。アメリカ人が他の国の人々の命なんか屁とも思ってないことは、歴史が証明していたり現在進行中のニュースで思い知らされてばっかりだけれど、アメリカの医者と保険業界の連中(と政治家)は、自国の同胞の命すらも屁とも思ってないんだから……そりゃ唖然とするよ日本人としては。命に関わる重病の治療を希望する患者に対して、保険の支払いを拒否する診断書をつくれば、保険会社を損させなかったということでボーナスをもらえるんだそうだアメリカの医者は。たとえ患者が苦しみながら死のうとも或いは手足を失おうとも、儲かった保険会社から大金をもらえりゃ関係ない…ってのがアメリカの医療現場なのだ。


もちろん中には立派な正しい心を持って働く医者だっている。……っても、アメリカ以外の国はそれがフツーで当たり前だよなぁ。人助けを信条としない医者たちが集まる社会・国がこの世に存在するなんて、想像さえできなかったんで腰が抜けたよ私は。いったいなんのために医者になるんだろアメリカ人は?


この映画のせいなのか、来年の大統領選の候補者たちも国民皆保険制度について、今さら思い出したかのように言及し始めたそうだけど、医者が人命や健康を守るために尽力するという当たり前のことも出来ない国は、ホントに情けないと思う。自分たちの命に関わることなのに、そういうことをそのままにするような国民だって大問題だ。映画で紹介されてたフランスやイギリスの医者は、人助けをして「いい暮らし」している。日本の医者だってそうだ。医者が患者を見殺しにすることで「いい暮らし」を手に入れるなんて馬鹿げたシステムは、アメリカだけだ。


そんなワケで、
新作『シッコ』はアメリカ以外の人々にとっては、アメリカの医療と保険の現実を嘲笑する映画になっている。なんて狂った国なんだ…と小バカにして観れば十分。映画を観ても自分自身の暮らしに役立つ情報なんかなんにもない…アメリカ人以外には。わざわざ観る必要なんかない映画だ。


……ただし、
我がニッポンだけは小泉改革以降、どういうワケかこの狂った世界の狂ったやり方(保険の民間業者委託)をお手本にし始めているので用心は必要。観る価値があるかもしれない。ホントにこんな世界をお手本にしてよいのかヨ?…と検討する意味で。


この映画を観ながら大泣きしましたよ私は……でも当世流行のヒット映画たちみたいに「泣いてスッキリ」なんて気分には、とてもなれない。
※『シッコ』は今週末より公開! http://sicko.gyao.jp/?cid=sicoverture