鰻をめぐる冒険

昨日は土用の丑
家族で鰻を喰うために、ノー残業デーにしてさっさと帰る。


慌ただしくならないように、蒲焼きも肝焼きも肝吸いも前日の日曜に購入済みだったんだけど、どうしても白焼きが食べたくて、最寄り駅である市が尾駅の東急ストアに立ち寄る。世の中どうして、鰻すなわち蒲焼きばっかりなんだろう? 私は白焼きをわさび醤油で食べるほうが、ベタベタ甘くて身も柔らかすぎる蒲焼きなんかよりもずっと好きなんだけれど、白焼きは「鰻の晴れ舞台!」な土用の丑の日ですらも、隅っこでひっそりと売られているだけだ。なんか寂しげだぞ……食べても精がつくどころか却って奪われる感じすら漂っている。


なんてことはともかくとして、
店内では「静岡県浜名湖産のウナギをご用意いたしました」というアナウンスが盛んに流れている。そのお値段は長焼き1尾1280円也(ついでに白焼きは100円upの1380円)。ららぽーと横浜のイトーヨーカドーで売ってたのは愛知産(980円)と宮崎産(1180円)だったのと比べると、さすがはオシャレな東急田園都市線の東急ストア、JR鴨居駅のららぽなんかと違って、「日本一の浜名湖の鰻の蒲焼き」を用意したってワケだね!


……なんて褒め称えたいところだが、
私としては、東急ストアのアナウンスには疑義ありだ。浜名湖って、たしかに日本で最初にウナギの養殖を始めた地だし、“夜のお菓子”ウナギパイも有名だし、ウナギ料理店が湖畔に溢れているから、「日本一のウナギの産地!」というイメージが強烈だけれど、実際に現場に行ってみると、じつはもう浜名湖のウナギ生産のピークはとっくの昔に終わっていることが哀しいくらいよく判る。浜名湖のウナギ生産が最も盛んだったのは、昭和40年代なんていう昔のお話。現在の“ウナギ王国”は鹿児島や愛知で、静岡県の全国シェアはとっくに10%を切っているんだから。
参考: http://www.unagi.jp/data/yousyoku.htm

もちろん「“日本一”というのは生産量じゃなくて味のことを言ってんだよ!」…という抗弁も成り立つけれど、ホントに味が日本一ならば、東西の大消費地のどちらにも近いという超有利なアドバンテージを有する土地の名産品が、そんなに衰退するモンかなぁ?…という気もする。


浜名湖のウナギは全国でもめずらしく、地元の稚魚が成魚になるまでずっと管理できるそうなので、そういう意味でもたしかに見事なウナギなんだろうけれど、東急ストア市が尾店が「浜名湖産です!」と盛んにアナウンスしていた鰻は、パックのシールには単に[静岡県産]としか書かれてないし、[焼津市場]というシールも貼ってあったけれど、浜名湖で穫れたウナギはホントに焼津で扱われるんだろうか?…という流通ルート上の疑問もある。……いや、単に私が知らないだけだけど。


ともあれ真相はどうであれ、
東急ストア市が尾店がそれほどまでに「浜名湖産のウナギ」にこだわるのは、もちろん味がよいから…じゃなくて、その名前が持つイメージ=「ブランド力」にこだわる故だろう。イトーヨーカドーで売られていた愛知産(980円)や宮崎産(1180円)の鰻よりも、浜名湖産1280円のほうが、お客さんは喜ぶんだろうな…おそらく。割高なのはブランド名の値段、なにしろ「浜名湖」と「東急」のダブル・ブランドだから(笑)。……コラボかよ。


オシャレ感がウリの東急田園都市線。東急が開発する住宅街には、「え? こんな奥地にまで“あざみ野”とか“青葉台” なんて駅名をつけちゃうの??」というところがいくつもいくつもある。たしかにいかにも東急らしい小洒落た住宅が建ち並んでてヨイ雰囲気なんだけれど、ソレはソレ。どんなにオシャレだろうとも、名前を冠した駅から遠く離れている現実は現実だ。


なんだかそういう感覚が、ものすごく「浜名湖産のウナギ」に酷似していると私には思えたのだった。



……ついでだけど、
東急ストア市が尾店のレジは、バイトも社員もどいつもこいつも揃いも揃ってゆっくりおっとりのんびり過ぎる! オシャレな田園都市線青葉区あたりで育った子女にはフツーの速度なのかも知れんが、保土ヶ谷区育ちの私には動きが止まって見えて……イライラしっ放しだ!