(ミュージシャンじゃないけど)落語好きなもので……

Tuduki2007-05-23

イマ売りの【BRUTUS】は落語特集。


「え〜、なにせ ミュージシャンは 落語好きなもので!」というキャッチコピー。……でも “看板に偽りあり”感が山盛り。落語初体験の〜つまり企画だからということで落語に初めて接したミュージシャンが多すぎだよコレでは。それに落語に造詣の深い(…という設定の)ミュージシャンたちのコメントも、「落語はジャズっぽい」とか「志ん生の語り口は耳に心地よい」なんて聞き飽きたおんなじフレーズばかりが、いろんなヒトの口から何度も何度も出てくるのでウンザリだ。


だいたい、自由闊達な落語を音楽に喩えようとしたらジャズしか出てこないのは当たり前じゃん。「歌舞伎の様式美はヘヴィメタル的」(←それをパロディとして20年も前に具現化したのがカブキ・ロックスだ)なんてのとおんなじくらい昔っから使われる喩えを今さら大勢で連呼されてもねェ……。それに「落語はジャズ的だ」という論旨を本気で突き詰めたければ、たとえどんなに志ん生がスゴくても、とっくに死んだヒトの昔の音源だけでジャズ的なライブ感とか“現在”の時代感を語るには無理があるってことに気付きなさいよ編集サイドは。論理が破綻してるじゃないか。


とはいえ、企画の目玉の井上陽水はやっぱり面白かった。対談相手の志の輔師匠がおもねり過ぎな印象だけど、陽水の変なキャラを上手に引き出してる感じ。……でも陽水本人はあんまり落語の影響を感じないよなぁ。落語っぽさが強いのはやっぱり山下達郎がイチバンじゃないかと私は思う。本人も落語マニアを公言してるけれど、あのラジオでのMCのリズム感なんか特に、落語がカラダに染みたヒトならではの所作って感じがする。


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暗い気分のせいかダレてた歪みか、新しいアイデアが浮かばなくて仕事まで行き詰まり。気晴らしに立川志らく師匠の落語を聴きにいく。


志らく師匠のサイトに載っていた「シネマ落語 Rimix」なるものを見にいったのだ。会場が渋谷シネマライズ(本来は映画館)?…しかも開演が21:45なんて遅い時間?…しかもRemixじゃなくてRimix?? ものすごく珍しい企画に思えたので、こりゃ見逃しちゃなるまい!…と、前日に滑り込みで予約をした次第。

まあ実際には、私の一方的な思いこみほどには珍しい企画でもなかったんだけど。【ライブ@ライズ】というシネマライズ側による企画として招かれたのが、たまたま今回(第2回目)は志らく師匠だった…というだけのことだった。「Rimix」もなぁんだ…単なる書き損じだったのか。とはいえ、ふだんの独演会とは会場も開演時間も客層も異なる場だったから、不思議な違和感を楽しめた。おまけに滑り込みで押さえた私の座席はど真ん中の特等席だったし……おそらく招待客かプレスのために用意した席がなにかの理由で余ったんだろうな、ラッキー!


立川志らく師匠といえば、有名な外国映画を落語の世界に翻案して演じる「シネマ落語」の始祖として、知っているヒトの間では有名だ。今回のシネマ落語は、あの名作映画『E.T.』を落語化したモノだった。ずっと見たかった演題だったので、ようやく見られてヨカッタ。

映画のストーリーをパクるなんてトンデモナイ!…と考える御仁もいらっしゃるだろうが、ホントはこの手法は伝統的なやり方だ。たとえば『死神』という有名な落語は、明治の超有名な落語家である三遊亭圓朝が、西洋の歌劇だったのを落語化した噺なのだから(さらにいえばその歌劇だって、グリム童話の歌劇化だ)。おんなじことを明治期の「落語中興の祖」と呼ばれる偉人がやっているってワケなのだ……なんてことは落語ファンには有名な話なので、くどくど説明するのはちょっと恥ずかしいぞオレ(笑)。


昨夜は志らく師匠本人も「私のことを“邪道”というヒトもいるけど、そういう意味じゃ私のほうが“正統派”なんです!」と言って喝采を浴びていた。私もその言葉に拍手した。そりゃ単なるパクリだったらカッコ悪いけど、より洗練させたり面白くさせるんなら文句ないじゃん…と思う。圓朝作『死神』の元ネタとなったグリム童話なんて、オリジナルは不気味な怪談だったのに、それを笑えて哀しいペーソスに満ちた噺へ…と、物語の趣旨自体がまったく変わっている。これってスゴイことだ。
志らく師匠の「シネマ落語」の場合は、物語の舞台を落語の世界に移しつつも、オリジナル映画の「ああ、あの有名な場面をこういうふうにイジって演ってんだぁ!」と客に思い出させる仕掛けを盛り込んで楽しませてくれたりして。これはつまり和歌でいう「本歌取り」、伝統的な手法とおんなじだ。或いはミュージシャンの「リスペクト」「オマージュ」とおんなじとも言える。わざと元ネタがわかるようにやってんだよ、しかもちょっとイジった部分にオレらしさが加わってるだろベイベェ!……てなモンだ。(よし、これで冒頭の“ミュージシャン”と繋がった!:笑)


そんなワケで、志らく師匠が名作映画を換骨奪胎したシネマ落語を、昨夜も満喫した私であったのだ。……でもパクリじゃないぞと言いつつも、書籍化するにはちょっと勇気と覚悟がいるよなぁ…とも思う私でもあったのだ(笑)。