先進国アメリカ様

Tuduki2007-02-15

今週発売の【ニューズウィーク日本版】の特集は、
格差社会はいいことだ 格差が広がるほど成長力は高まり中流層も潤う それが経済の真実だ」

格差の是正を訴える我々日本の庶民を嘲笑するかのようなタイトルだけれど、なにしろ病気になっただけで破産しなきゃならない人々が大勢いる“格差社会”先進国であるアメリカ様の雑誌がおっしゃることだから、なにかハッとさせられる見識でもあるかも知れないと思って読んでみれば……満員電車の中で私はむかっ腹立てまくりだ。なんとも身勝手な論理のオンパレード。さすがは“厚顔無恥”先進国のアメリカ様の雑誌だよ、ふん。


記事では、以下のようなことが主張されている(太字は記事の原文そのまま)。
アメリカのように所得格差が広がっている国は経済成長率が高く、フランスのように格差が拡大していない国は成長率が低い。
……ふつうに考えりゃ順番が逆なんじゃないの? 格差が広がってるから経済成長率が高いんじゃなくて、経済が成長するなかで資本家の利益ばかり優先させてるから格差が広がってるだけじゃないか。それなのに、もし大金持ちに増税すると「利益を追求するチャンスを狭められてしまう」から「中流層にもしわ寄せが及ぶ」ときたもんだ。資本家優遇処置に不満を持つ一般民衆を脅かしてやがる。
そもそも経済成長率が低い国はダメ…という発想自体がひとりよがりだし。もし世界中の人々に「アメリカ様とフランスを比べてどっちが好き? どっちに行ってみたい? どっちが暮らしやすいと思う?」とアンケートをとれば、どんな結果になると思っているのかね? また、フランスと同じく経済成長率が低い国として「国全体が貧しいキューバでは、所得格差はほとんどない」なんて書いてるけれど、キューバを訪ねた世界中の観光客の多くが“貧しいけれど誰もが幸せそうな笑顔をしている”と言ってるじゃん。そりゃもちろん幸福の定義は各人各様だし旅行者の私的な感想をもとにしても仕方ないけれど、年間1170万件の犯罪が発生して16,000人が殺されて95,000人が強姦される(2004年 FBI調べ)ような、“人殺し”先進国&“レイプ”先進国であることを棚にあげて、隣の貧乏国をバカにしなさんなよ。


●超リッチ層が豪勢な生活にふければ、周辺の人間にもカネを手にするチャンスが生まれる。米金融大手シティグループエコノミスト、アジェイ・カプールによると、アメリカでは上位20%の富裕層が国内消費の60%以上を担っているという。
……要するに、金持ちが浪費して散財するおこぼれにあずかれ!と言うワケだ。こういう理屈を平然と言えるんだから畏れ入るねどうも。


つまりこういうこと?
「金持ちは贅沢して食い散らかすから、中流層はそうしてできた栄養価の高い残飯を喰え。そんな残飯を食べて中流層が排泄する栄養価の高い大便を、貧困層は喰え。そうすれば経済は成長し続けるのだ」と。
……これはさすがに【ニューズウィーク】の記事じゃない。奇才・諸星大二郎が20年くらい前に描いた短編マンガのプロットだ。彼はもちろんこのマンガをディストピア的“寓話”として描いたワケだが、【ニューズウィーク】はおんなじ理屈を“現実”のニュースとして扱っているのだ…死にゆく貧困層に思いを巡らすこともせずに。いかにも、論旨の深さや正確さよりも他人を言い負かすディベートのテクニックばかり重んじるアメリカ様らしいや。さすが世界一の“屁理屈”先進国!


こうやって考えると、アメリカ様が“映画”先進国である理由も鮮明に見えてくるってモンだ。アメリカ様の世界じゃ、純愛も善行も人命も博愛精神も、現実の世界では尊重されないんだもの。現実の世界じゃ疎まれて滅多に目撃する機会がないモンだから、せめておとぎ話(=映画)の中だけでも、純愛や善行や人命や博愛精神を大事にする…ってワケだ。でもって“マーケティング”先進国らしく綿密な市場調査をしたうえで、映画『幸せのちから』みたいな「奇跡の実話」を、本当は文字どおり“奇跡”だってのに、もしかしたら自分たちにも起こりうるかもしれない「アメリカン・ドリーム」だ…と思いこませて大衆をコントロールし、映画会社が儲けるって寸法か? さすが“エンタメ”先進国は、人心掌握も商売もぬかりがないね。


たしか年末くらいのテレビ番組で、ハリケーンカトリーナ」に襲われたニューオーリンズの現状をレポートしていたけれど。さて、どのくらい復興したんだろうかと思って観たら、ほとんど放置されたままの状態だった。いくら甚大な被害だったとはいえ、被災(’05年8月)から1年以上も経つってのに……ふん、ルイジアナは貧乏人が多いから復興なんかしなくても経済成長には影響しないという理屈かよ。まあたしかに、貧乏人のために国費を費やしたら格差が少なくなって経済成長率が落ちるもんな…【ニューズウィーク】の理屈では。


経済成長率はアメリカ様よりずっと劣る現代ニッポンだけど、そんな後進国ニッポンでも、災害地を復興するのは当たり前だと考えてるモンだ。我々だったらニューオーリンズを放置するなんて絶対にありえない。それは“経済”の問題じゃなく、“人間の尊厳”の問題だ。


……あれだけ好きだったアメリカなのに。なんかもうね…どうでもいいや。