IKEAに行けば……

Tuduki2006-11-17

5年くらい前のことだが、ユニクロが現代アーティストのTシャツをズラリと揃えて売ったことがある。5~6名のアーティストの作品をプリントしたシャツがそれぞれ10パターンくらいずつも用意されていて、ものすごい企画だった。キース・ヘリングのファンである私は狂喜乱舞、なにしろそれまでキース・ヘリングのTシャツといえば安いのでも4000〜5000円が相場。それがたったの1500円というユニクロ値段で、しかもいろんな絵柄が10種類もあるのだから! それでとりあえず購入第一弾(第二弾以降も続々と…の予定)のつもりで、キース・ヘリングバスキアのTシャツを5~6枚ほどまとめ買いしたのだが……


結局そのTシャツたちは、ほんの数週間で部屋着に降格させられた。なぜなら自分と同じキース・ヘリングバスキア絵柄のTシャツを着た人たちが街中にあふれてしまったから。しかも、現代アートなんかにゃ興味なさそうな中年(さらに壮年)のオヤジや予備校生ルックの青少年ばっかり……言うまでもなく、彼らはそのシャツが「バスキアだから」着ているワケではなく「ユニクロだから」買ったワケだ。「いやオレは彼らとはちがうんですよ、キース・ヘリングが好きだから着てるんですよ!」と世間の他人様ひとりひとりに説明して歩けるハズもなく、とてつもなく恥ずかしい心境に陥った私は、以後そのTシャツを外で着ることはやめた次第である。つい先日、いまだに新品同様な(しかもデザインはさすがに秀逸な)そのTシャツをタンスの中から“発掘”した妻がそれを着て出かけてったら、ママさん仲間に「あ、これってユニクロでしょ? 私も持ってたよ〜!」と声をかけられたそうだ。……だ・か・らぁ、そりゃたしかに「ユニクロ」だけど「バスキア」なんだってば(笑)。ホントに大事なのは、そっちだったのに……嗚呼。


さて、なんの話かといえばIKEAの話である。
「今日は会社を休んで、買い物につきあってちょうだい!」という妻の命令に従って有休をとった。はじめ南町田のグランベリーモールに赴いたがピンとくる品がなく「あ…そうだ。近所にできたIKEAにまだ行ってなかったぞ」ということで、週末は激混みであいかわらず駐車待ち渋滞まみれのIKEAを訪ねることにしたのだけれど。


いやぁもう、なんというか驚嘆した……デカイとは聞いていたけれど、これほどまでに巨大だとは! 歩いても歩いても次々と新しい商品があらわれる。「ひとり暮らしの若者」だとか「幼い子のいる若夫婦」だとかを想定したワンルーム2LDKの部屋すべてがまるまるIKEAの商品だけでディスプレイされているモデルルームがあちこちにボコボコある。でも、そんな手の込んだディスプレイすらも目玉企画になれないくらい、全体の量的な凌駕感!


実際に行く前は、正直ネガティブな印象を抱いていたのだけれど<http://d.hatena.ne.jp/Tuduki/20060904>、ナチュラル系やモダン系やカントリー系その他さまざまなインテリアデザインの流行がひととおり押さえられていて、しかもそれぞれに生活ひととおり分の商品が完備されているのを見ると、印象を改めざるを得ない。いろんな店を何軒も回らなくてもIKEAにさえ行けば、自分のやりたいライフスタイルっぽいインテリアがひととおり揃えられるのだから。しかも驚くほど安いし。我が家にあるのとそっくりな木製の水切りは590円だった……「ウチのアレっていくらだったっけ?」「たしか自由が丘で4000円くらい……うへぇ」。まったく「うへぇ」な値段、オドロキの価格破壊である。


とはいっても、
形は同じでも材質をよくみれば、自由が丘で4000円のはヒノキかスギっぽいのにIKEAで590円のは割り箸みたいなバルサ材かなんかで、質感はまったくちがう。私が好きな南欧のアイアン風の飾りも、遠目にはオシャレでも近づいて触ってみると、表面がツルツル(ああいうのはザラザラしてなきゃヤだ!)なフツーの鉄パイプをそれ風にしてあるだけだったりする。自然素材のカゴは仕上げのヤスリがけが雑で、指に3本もトゲが刺さった(笑)。デザインはそっくりでも、やっぱり別物だなぁ…と思う。


でも、だからといって
IKEAは安物だから全然ダメだ!」とは思えなくなっていた。10年前の我々〜それこそモデルルームでディスプレイ提案されていたような「幼い子のいる若夫婦」だった頃なら、この価格と品揃えに喜色満面だったにちがいないからだ。安い家具の安っぽいデザインにガマンして暮らしていたあの頃にいまのIKEAみたいに、もっと安い値段なのにちゃんとしたデザインの家具が揃えられたら、ずっとカッコよく楽しく暮らせたろうな…と思う。でもってやがて歳を重ねていくうちに、デザインだけでなく材質もちゃんとした家具や雑貨にだんだんと買い換えていけばヨカッタわけだもんな…と。私の世代には間に合わなかったけれど、もっと若い世代のインテリアのオシャレ感覚はIKEAのおかげで間違いなくアップするんだろうなぁ……。


さてところで、
本物のイサムノグチなら10,000円以上するペンダントライトにそっくりなライトが、IKEAでは1,000円ちょっとだった。イサムノグチのファンはイヤだろうなぁ……彼のデザインが好きで大金出して買いそろえただろうに、これからは「あ、これってイケアで買ったんでしょ〜? 安いよねぇあの店♪」なんて誤解され続けてしまうのだから。