世界はもう、私のものではない

Tuduki2006-08-29

やっぱりあまりにもキモチが「夏不足」なものだから、週末にぶらりと家族旅行してきました。


……いや私自身も「夏らしい過ごし方してないなぁ」と欲求不満だったのだが、息子たちも同じだったようで。せめて朝くらいは子どもの顔が見たいから、最近はゆっくり10時近くまで家で過ごしていたのだけれど、毎朝毎朝「パパ、今日はカイシャ行かないの?」と訊かれるのが、親として心苦しくなっていたのだ。


行き先は熱海。言わずと知れた「元祖リゾート地」というか「元リゾート地」というか……かつての「新婚旅行の聖地」が「不倫旅行の性地」へとおちぶれ、とうとう社員旅行にも利用されなくなった代表的な凋落スポットとして有名な観光地。ところがどっこい、実際に行ってみるとイマドキの熱海は意外にオモシロイのだ。なにしろ、かつての繁栄の名残そして凋落の残骸だけでなく、再開発をする街の様子と再発展にチャレンジする人びとや自治体のありさまがいっぺんに見られるのだから。昭和、平成そして未来の姿を…その脱力と希望を“諸行無常の響きあり”感覚で楽しめる。沈まない太陽はないけれど、明けない夜もこれまたない…ってワケだ。


故・吉田茂元首相のわがままの恩恵(注記:国会から別荘のある大磯まで大急ぎで帰りたくて、スイスイ走れるR246と小田原厚木道路西湘バイパスをつくった)で、港北NTのウチから熱海までは道が空いてればクルマで1時間もかからない。
だけど今回は高速道路をなるべく使わず、よく知らない一般道をわざと気まぐれに走ってみた。そのおかげでほとんど県内旅行みたいなモンだというのに、ずいぶんと遠出した気分も味わえた。住み慣れたつもりの横浜市なのに、同じ横浜市の奥のほう〜瀬谷区とか泉区のあたりが、いまだにあんなに閑散とした田舎だという事実をまのあたりにして驚いたし……まさに旅ならではの醍醐味! でも、それほどすごい田舎なのに、道路や駅それに商業施設はしっかりしていて住んだらケッコウ快適だろうな…と思わせる雰囲気を醸している。さすがはYOKOHAMAだなぁ!…とは意外に郷土愛の強い私のひいき目か。


途中で真鶴に立ち寄った。神奈川西端のほうの磯である真鶴は、たこ八郎が溺死した場所として有名だ。
岩場にはカニやヤドカリがいっぱい。小学4年生の長男にすばしこいカニを捕まえるコツを伝授する小学35年生の私。「ほら、そうじゃなくてこっちから!」なんて得意げに教えていた私だけれど、だんだんコツがわかってきた息子がとうとう私のよりも大きいカニを捕まえた。……そうなると、“先輩風”を吹かしていた“上級生”の私としては非常にクヤシイ。こっちまでムキになってしまい、結局2時間以上もカニとたわむれる羽目に……泣きぬれながら。そしてじっと掌をみた…というのはもちろん石川啄木をもじったささやかな冗談だけれど、この真鶴には高校の遠足でも来たことがあり、今は亡き級友のことを思い出してちょっと涙がにじんだのは、妻と子には秘密だ。……なお、カニ勝負はラストにダントツでデカイのを捕まえたオイラ小学35年生が辛うじて逆転勝ちした。


翌日は伊東市富戸まで足を伸ばし、伊豆ぐらんばる公園へ。トランポリンやらアスレチックやらと全身を使う遊びが盛り沢山の施設なので、体力が有り余っている息子たちには最適かと。
アスレチック遊具のひとつに、ぶらさがった木の棒や鉄輪やロープを掴んだり足をかけたりして、地面に落ちないように渡り歩く…というのがあった。まずオイラ小学35年生がセンパイとして見本を示した。最後の最後で油断して落ちてしまったけれど「まあこれでやり方はわかっただろ? ハイじゃあガンバレ」と長男小学4年生にやらせてみた。
ケッコウ難しくて、よその親子連れや学生グループも挑戦しては失敗して、さっさと次の遊具に向かっていったのだけれど……長男のヤツ、何度も失敗してもなかなか諦めない。「そろそろ次のにチャレンジしようか?」と訊いても、「ううん。全部のアスレチックを最後までやりきるんだ」と首を振る。……そうこうしているうちに、とうとう最後まで渡りきってしまった。「よっしゃぁ! ミッション・コンプリ〜ト〜〜ッ!!」と大喜びだ。


私だって、あとほんのひと息で渡りきれたハズではあるけれど、結局は成功していない。だからといって再チャレンジする体力も気力も、もはや私にはなかった。……ということはなにか? 私は息子に負けたのか? とうとう息子に負ける日が訪れたということか。

“じゃんけんみたいな運まかせの勝負ならともかく知力や体力の勝負なら、まだまだ息子にゃ負けないぜ勝って当然だぜ”と思ってた私だったけれど、昨日のカニ勝負は辛勝したものの今日のアスレチックは遂に負けとは……。右肩上がりで成長する息子の成長グラフの線と、不摂生&加齢で徐々に下降する私の衰退グラフの線とが交差して、優位な立場が逆転する日はどうやらそう遠くなさそうだ。


考えてみれば、長男も10月の誕生日でとうとう10歳。ついにティーンエージャーになる。高校時代の…思春期のキモチは、楽しいキモチだろうと悲しいキモチだろうと今でもつい昨日のことのように鮮明に思い出せるのに、今の私よりも息子のほうが、あの年齢やあのキモチにずっと近い位置に立っているのだ。高校時代の…今は亡き友人とバカなこと言ったりやったりしていたあの日のオレに親しい位置にいるのは、現在の私ではなく息子のほうだ……そのことに改めて気づいたら、なんだかクラクラした。


この世界は、もう既に私のものではない。……いや勿論、実際に私のモノだったことなんて一瞬たりともなかったけどさ(笑)。でもそういうキモチを抱くことができて意気揚々としていた時代は、確実にあった。そしてそういうキモチを抱くのは、今度は息子たちの番なのだ。


……「夏不足」は解消できた。ついでに「夏の終わりの寂しい気分」まで、はからずも満喫できてしまった私なのであったよ(笑)。