ジョン右衛門はある朝突然に

Tuduki2006-07-19

じつをいうと、このところずっと体調および気分が超低空飛行の私。


といっても、カラダあるいはキモチのどこかが決定的に具合悪いワケではなく、昔からよくある言い回し「疲れがどっと溜まった状態」…な状態です。なんというか電池が切れる直前のウォークマン(カセット)みたいで、私のウリである頭脳明晰っぷりがすっかり影を潜めてます。
……ほらね、本気で書いてんのか冗談のつもりなのか判別できなくて困惑したでしょ?


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1983(昭和58)年7月1日(金)の思い出。


朝、起きたら太陽がもうサンサン。
いかにも梅雨の中休みテイストな青空がキモチいい。

原チャリ(スズキのマメタン)をぶるるんとキックして学校へ。
いつもは最寄りの相鉄線西谷駅までしか乗らないんだけれど、
あんまり風がキモチいいもんだから予定変更。
高校まで乗っていくことにした、いざ権太坂へ!


……と思って走り続けたんだけど、
あんまり風がキモチいいもんだからさらに予定変更。
国道1号線をさらに進み、戸塚を越えたら鎌倉方面へ。
本日は7月1日……たしか海開きだったんじゃないかな?
そう思った途端、湘南に行きたくてたまらなくなったのだ。
こんな日にまっすぐ学校へ行くなんてモッタイナイ!


北鎌倉を抜け八幡宮を横目に右折、
大通りをまっすぐ進んでいけば、
やがて右に鎌倉駅…さらに左にマクドナルド…そして交番。
その突き当たりは一面に広がる海! 海! 材木座由比ヶ浜海岸


……その日が果たして本当に海開きだったのやら、覚えていない。
梅雨明け前の平日のビーチではトンカントンカン大工仕事の音。
「海の家」づくり最後の仕上げ…ってオモムキだった。


R134沿いに西へ。江ノ電と併走しながら江ノ島を目指す。
腰越にサーファーはいたかなぁ……あんまり覚えてないや。
橋を渡り江ノ島に上陸……潮風に混じって焼けたしょう油のニオイ。


いちばん奥にある駐車場の傍の歩道に原チャリを停めた。
駐車場の向こうの堤防によじ登り、スニーカーと靴下を脱いで腰かけて、
キンキンに冷えたスプライトの缶をプシュッ…ゴックン…プハァーッ……
ウォークマン(カセット)から流れる佐野元春
夏だよ夏。18歳の夏が来た……高校生最後の夏が来たっ!




……などと
ひとり「夏を先どり気分!」に浸ったのち、昼休みに高校に到着したオレ18歳。無断欠席すると親に連絡がいくモンだから、高校へはちゃんと行くのだ……5分遅れでも4時間遅れでも、遅刻は遅刻だから。だってオレ、たかが公立とはいえ県下有数の進学校の受験生だもんな。遅刻なら問題なし。これでいいのだ!


とか思って余裕かましていたら、突然、担任の平瀬が教室に入ってきた。「こら! お前、どうして午前中から来なかったんだ?」と怒鳴られる。「あ、ちょっと腹が痛かったもんで……」と私。不健康に見えない私の顔と、腹が痛いハズなのに食べかけの弁当を交互にニラミながら平瀬は言った。


「まったく今日はどのクラスも大勢で遅刻したり休んだり……お前たちがどこに行ってたのか、ちゃんとわかっているんだからなッ!」


へっ? そんなにたくさんのヤツらが学校をサボって海に行ってたの? いくらステキなお天気だからって、県下有数の進学校(でも公立)の生徒たちが大勢で海へ……? そんなふうに不思議に思っていたら、ふたたび平瀬が怒鳴る。


「とぼけても無駄だぞ! 今日から予備校の夏期講習の申し込みが始まったんで東京まで行ってたんだろ! わかってるんだからな!」


は? ヨビコウノカキコウシュウノモウシコミ……? こっちが海を眺めながら日なたぼっこしてる間に、みんな大勢で東京まで行ってたの? ……18歳の夏、高校生最後の夏はすなわち「受験生の夏」だという現実を思い知らされた瞬間だった。


しばらくして、また遅刻者がやってきた。「夏期講習の申し込みに行ってきたんだって?」と尋ねたら、「え? いやオレは海までちょっと…」 ……だ、だよなぁ! フツー今日は予備校じゃなくて海だよなぁ行くべき場所は!
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翌年、我々が大学受験に失敗したことは言うまでもない。
とはいえ、あのとき東京の予備校に申し込みに行かなかったから、その代わりに翌年ずっと東京の予備校に通う羽目になった…なんて因果関係があるハズもないし、あの日の自分には「海を眺めて日なたぼっこする」ことが最良の選択だったんだと思う。だから20年以上経った現在でも、あの日のキモチあの日の風あの日の眩しさあの日の匂いを鮮明に思い出すことができるし、思い出すとちょっと元気がよみがえる。


……さあこの大雨を脱すれば、いよいよ梅雨明け。夏本番だ。


※写真はもちろん、ジョン・ヒューズの傑作『フェリスはある朝突然に』(’86)。公開時、どこの国の高校生もおんなじだぁ…とやたら嬉しかった。いま改めて考えると、気軽に学校をサボれない境遇だからより一層、映画に共感できたんだな…ということがわかる。私にとっては、サボることがそれなりに“大事件”だったから。しょっちゅうズル休みしてばかりだった連中には、この旨味は理解できまい(笑)。
※1983年7月1日の天気:http://www.chokai.ne.jp/mimori/ca830701.html