ハリポ6を読む

Tuduki2006-05-25

全世界の子ども達の愛読書『ハリー・ポッター』。最新第6巻の翻訳本が先週17日に発売され、おおむね1週間が過ぎた。


第5巻目にあたる前巻『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』が発売されたのは2004年9月。あのときはまさに「狂騒」という文字で表現するに相応しい状況で、舞い上がった青山社の女社長さん(←当該書籍の翻訳者でもある)が、みずから魔女のコスチュームを着込んで店頭に立つ様子がニュースで紹介されたりして、そのはしゃぎッぷりに強烈な違和感を感じながらも、そうね全国のファンが待ちに待った新刊だもんね浮かれても仕方ないよね…と思ったものだ。


で、最新作についてだけれど……今回はあんまり盛り上がってないような気がしますね世間は。
発売初日に「早朝から書店前に行列!」というニュース配信や映像が流れていたけど、なんだかヤラセ…とまでは言いたくないがスゴク演出っぽい。早朝から並んでもいいから誰よりも早く読みたいの!…という熱心な読者は大勢いるから、その子たちを分散させずに“1箇所に集めれば”、行列なんか簡単に“演出”できる。ただ、それはあくまで「最も熱心なファン」たちであり、ふつうに熱心なファン→ふつうのファン→いわゆる本好き→ただの話題好き…と読み手がすそ野まで広がっていかないと、初版200万部刷って相当の数字だから。(ところで私、某アメリカ映画のキャラクターグッズが午前0時に販売されるアメリカからのニュース映像に、行列のひとりとして映ったことがあります。いや私は業務として、そのキャラ商品が必要だから並んでただけだったんですが…というか、行列構成員のほとんどは私と同じで、日本から仕事でやってきた“お客さん”でした)
もちろんちゃんと捌けると綿密に計算した上で部数を決めたハズだし愛読者は多いとは思うのだけれど……電車の中で、あの重い本を広げて読んでいるヒトを今回はほとんど見かけない。周りを見回してもそんなヒトはこの私ぐらいのものだ(←熱心なファンじゃんかよオレも)。愛読者は多くても、「待ちに待ってた」感はさすがに萎えちゃったんじゃなかろうか。


それからタイトルについても、やっぱり釈然としない。邦題は『ハリー・ポッターと謎のプリンス』だけれど、原題は【Harry Potter and the Half-Blood Prince】。要するに、直訳すれば本当なら『ハリー・ポッターと混血の王子』になるはずだったのだ。
……ご存じかとは思うが、人間の「血筋」とか「血統」に関する表現は、日本の出版界では非常にデリケートな問題だ。デリケートなのはもちろんそれが差別問題に直結しているからで、今でこそハーフの子もそう珍しくはないけれど、ひと世代前までは「混血」だとか酷いヤツなんか「あいのこ」なんて呼んで、差別しないほうが珍しい世の中だった。人種だけでなく民族、部落などさまざまな差別があり、それが「血筋」と密接に絡んでいた時代は、そう昔のことではない……いや現在だってその種の問題が解決しているわけではないのだ。
だから、“Half-Blood”を直訳せずに「謎の〜」なんて言い回しでボカすのは、出版社側の配慮としては適切かつ当然の処置だと私も考える。でも、それでも釈然としないのは、残るは最終7巻のみとなった『ハリー・ポッター』という物語を鑑みれば、この物語の主題そのものが「血筋」であることが明らかだからだ。
英国生まれの翻訳本だし、あれだけ売れてる本なので、日本の翻訳版元の青山社が内容に口出しできるワケもないけれど、日本ではまず絶対につくれない展開だよなぁ…と本文を読みながらそう思う。ちなみに本文での“the half-blood 〜”の日本語訳は、さすがに「謎の〜」ではテーマが伝わらないし、かといって「混血の〜」とするワケにもいかないので、「半純血のプリンス」となっている。……本意は通っているのである意味“妙訳”かも知れないけれど、やっぱりなんだか苦し紛れだし、小手先っぽい感があるんだよなぁ。


……このあと内容について触れようとしたが、いろいろ文句たれたくなったのでやめることにする。でもまあそんなクセして、満員電車のなかで重たい本を開いて読んじゃったんだから、私もまた行列の一員になりかねない「最も熱心なファン」のひとりだということか。