カンガルー

Tuduki2006-01-06

オーストラリアを探検するクック船長たちは、丈夫な2本の後肢で跳ぶように走る不思議な動物を目撃した。「あの動物はなんだ?」と尋ねられた先住民は「カンガルー(=知らない)」と答えた。ところがクック船長たちは、その動物の名前を「カンガルー」と呼ぶのだと思いこみ、以後カンガルーという名が定着するようになったのである……。


というのは有名な話だが(あまりに出来すぎたネタでちょっとアヤシイけど)、似たようなネタは日本語にもある。
江戸時代、オランダ商人が運んできた品物の中に、にぶい色に輝く見慣れぬ金属の箱があった。検査官が「これは何だ?」と尋ねると、オランダ商人はその中身を問われたと思い「これはbrick(レンガ)です」と答えた。検査官の侍は、なるほどこの箱はブリクという金属でできているのだな…と理解した。そんな互いの誤解がもとで、その金属は日本では「ブリキ」と呼ばれるようになったのだ…みたいな話がその一例。また幕末ごろの日本人は、イヌのことを英語では「カメ」と言うのだと思っていたらしい。イヌに向かって「come! come!」と呼んでいたのを聞いて誤解したというワケだ。


え〜と…なんの話題かというと、見知らぬ言語と接触する際にはその手の誤解はよくあることで、ましてやこれから日本語を覚える赤ん坊ならなおさら…という話題です。

我が家の三男、通称びびは、服にジュースをこぼして「服がビショビショじゃないの。風邪ひくから早く着替えなさい!」と妻に叱られてシャツを大急ぎで脱がされて以来、たとえば暖房の効いたデパートなんかで上着を脱ぎたいときに「ビヂョビヂョ〜」と大声で騒ぎ、早くお風呂に入りたいときも「ビヂョビヂョして〜」と泣き叫ぶようになった。……つまり「ビショビショ」=「服を脱ぐこと」の意味だと思いこんでしまったのだ
あんまり面白いから、「ほら、おでかけするから早くパジャマをビショビショしようね」とか「外から帰ってきたら、うがいと手洗いしてコートをビショビショしろよ」とかやってたら、長男次男も面白がってマネしはじめて非常に愉快だった。……が、妻に「一生懸命に言葉を覚えようとしている自分の息子にインチキを教えるとは何ごとだ!」ときつく叱られた。


まあ赤ん坊のことばかり笑ってもいられない。
以前インドネシアの奥のほうのすごい田舎を訪ねたときのこと。東南アジア特有の腹痛でトイレを探していた私は【WANITA→】という貼り紙を見つけ、「たぶんW.C.の“W”の略した言葉と同じ意味のインドネシア語にちがいない」とすばやく推理。矢印の方向に行ってみると…推理どおりトイレを発見! いそいで飛び込んだ。ようやくホッとひと息ついた私。なるほど、この地方ではトイレのことをWANITAと表記するんだな、勉強になったぞ…とか考えながらトイレから出ると、いつのまにかスゴイ行列。そして、なぜかトイレから出てきた私を見て怒っている。なんだよ、ちょっと長くなっちゃったくらいしょうがないじゃないか!…と、私もその態度に不快感を抱いたのだが、宿泊するホテルに着いて事情が飲み込めた。ホテルのロビー脇のトイレにも「WANITA」という文字が……しかし、その文字のとなりには洋傘をさした貴婦人のシルエットが赤色で描かれていたのだ。
そう、私は【WANITA→】という貼り紙を見て、【トイレ→】と書いてあるものと思いこんだのだが、本当はそうではなく【女性用→】という意味だったのである。そういえば、私を見て怒っていた長い行列の人たちは全員が……


ちなみにW.C.とはwater closetの略、だからWは“水”の意味。対してwanitaは今にして思えばおそらく、vanitaやvonitaと同じ語源の「女性」を表す言葉だろうから、まったく関係ない。


え〜と…なんの話題かというと、見知らぬ言語と接触する際にはその手の誤解はよくあることで、ましてやこれから英語を基礎の基礎から覚えようとするオヤジならなおさら…という話題なのであった。