さよならメダカたち

Tuduki2005-12-06

引っ越しにともない、困窮したのはメダカたちの処遇だ。

屋上でコンクリートパレットに水をはり水草を入れ、メダカ、ヌマエビ、タニシなどをもう4年も飼ってきた。当然この屋上で生まれ育ったメダカたちもいる。田んぼの土を入れたらサカマキガイが繁殖してきたし、トンボたちが勝手に産み落とした卵からふ化したヤゴまでいる。人工的な水たまりが、もはやひとつの「池」といえる具合にまで馴染んでいたのだが、これから先しばらくはアパートに仮住まいするため、飼えるあてがない。どうしたものか困って悩んでいるうちに、とうとう屋上の造作物の本格撤去の日がやってきたのだ。
今日中に屋上を完全にキレイにしないと、引越業者もクリーニング業者も作業ができなくなってしまう。そのために、やたらテキパキ値の高い、戦前生まれの働き者の親父とお袋まで助っ人に招いているのだ。だがそのための大前提として、私の「池」に棲む生き物たちの処遇を決めなければならない。

港北ニュータウンには川や池がいくらでもあるんだから、そこに放流してしまえばいいじゃないか…という御意見もあるだろう。生命力の強いブラックバスブルーギルやピラニアを放すワケじゃないんだから、生態系にだって影響はないだろうよ…と。ところがコレって影響大アリなのだ。
なぜなら、私が飼うメダカやヌマエビは、近所のペット屋〜具体的にはセンター北駅真横にある【ペットエコ横浜】で買ってきたもの。元々このへんの川や池にいたものではなく、メダカ業者、ヌマエビ業者、タニシ業者が人工的に大量に養殖したもの……つまり自然界に存在していない血統なのだ。人間がつくりだしたヒメダカはもちろん、たとえ自然界に元々いるクロメダカだとしても、他の地域の血統をもつ個体を放流することは、その川や池にヨソ者の血が混じることになってしまい、DNAレベルでの「汚染」すなわち「自然破壊」となってしまうのだ!
こんなことをしては、自然を愛するナチュラリストとしては大失格である。


……と思ったのだけれど、よくよく考えてみりゃオレは別にナチュラリストでもなんでもねぇや。
「汚染者」呼ばわり結構、「自然破壊者」呼ばわり上等。だいたい私は血統とか血筋とかそういう類の話が大嫌いなのだ。私にとって大切なのは、私が愛したメダカたち「個」それぞれの命なのだ。種の総体としての純潔度を守るために、こいつらの命を守っちゃいけないなんてバカな話があるもんか!
……という開き直りで、私はメダカたちの放流を決意した。バケツだと目立つから、大きな密閉容器を2つばかり買ってこよう。それに集めたメダカたちを入れたら、自転車のカゴに積んでさりげなく近くの遊歩道沿いの小川まで運び、人目を避けてすばやく放流してしまえ! 揺るぎない決意に燃える私は、ぞうきんやビニール袋それから放流用の密閉容器を買うべく、100円ショップに向かったのだった。

私がタッパウェアを抱えて帰宅すると、親父とお袋はもう来ていて、持参した作業着に着替え、すでに作業に取りかかっていた。さすが早い。木製のラティスは親父の手で次々に分解され、しかも一般ゴミに出せる50cm以下の長さに切り揃えられたうえに運びやすいように麻縄でまとめてしばってある。お袋はプランターをひっくり返して不要な土は袋につめ、冬越えできる植物はムダな枝葉を切り落として植木鉢にまとめている……スゴイ! テキパキしすぎ! 我が親ながら、心より感嘆した私だ。


……のはいいのだが、あれ? あれれれ? メダカ池は? 「あ……」

私のメダカ池は、お袋によってすでにキレイに片づけられていた。水草はバケツに全部集められ……でも生き物は?
「水? 全部とっくに流しちゃったよもう……メダカ? そんなの中にいたの? 全然見えなかったよそんなもん」

“見えなかった”って…あなた視力は両目0.04じゃないですか。そりゃ見えなかったでしょうよ……ああ、私の愛したメダカたちは、あわれ排水口の露と消えてしまったのだ…………。
「川に放したってどうせすぐにコイやアヒルに食べられちゃうんだよ、排水口に流れたほうが長生きできるかもしれないよ」と悪びれる素振りさえまったくないお袋。ああ、たしかに私はこの母親に育てられたんだ、それで子どものころから、いろんな大切なものを何度も躊躇なく棄てられたんだよなぁ……としみじみ思い出す一瞬だった。

写真は生きていた頃のメダカの姿……合掌。

まったくもって、どうして私に飼われたペットはことごとく不幸な結末を迎えるのだろうか? 「一軒家に住んでも、犬なんか飼っちゃいけないな…可哀想だよ」と、使いみちのなくなったタッパウェアを握りしめながら思う私であった。
『賢者のおくりもの』かよ……いやO.ヘンリーというよりも、この後味の苦さはむしろサキか。

※小さな写真はMyメダカ池の黎明期。このあと妙にハマって、この倍のサイズのパレットをさらに買い足して大きな池にしたのですが……合掌。
※私の後悔まみれの飼育歴はこちら→〈http://d.hatena.ne.jp/Tuduki/20050624