ひとしき人

Tuduki2005-06-09

冷蔵庫内の片づけのために弁当をつくって出社、梅雨いり前の陽光を愛でるために某デパートの屋上で恐妻家弁当を広げた。ちょうどゴーヤをおかずにしていたので、オリオンを選ぶ。

でもって、午後の仕事に戻ってから偶然みつけたのが、以下にあげる短歌の連作。最近は涙腺がゆるみきってることもあって、仕事中なのにウルウルしちまいました。

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たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ 頭ならべて物を食ふ時
たのしみはまれに魚煮て児等皆が うましうましといひて食ふ時
たのしみは機(はた)おりたてて新しき ころもを縫て妻が着する時
たのしみは三人の児どもすくすくと 大きくなれる姿みる時
たのしみは雪ふるよさり酒の糟 あぶりて食ひて火にあたる時
たのしみはあき米櫃に米いでき 今一月はよしといふとき
たのしみは朝おきいでて昨日まで 無かりし花の咲ける見る時
たのしみはそぞろ読ゆく書の中に 我とひとしき人をみし時
たのしみは書よみ倦るをりしもあれ 声知る人の門たたく時
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文語なものだから「わっ…古文?」と思って(注:古文じゃありません)読まずに敬遠する方もいらっしゃるだろうから、野暮を承知で現代語訳も記しておく。

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楽しいとき…それは、妻も子もなかよく集まって、みんな揃って食事するとき
楽しいとき…それは、たまに魚とか煮て、子供たちみんなが「うまいようまいよ」と言って食べるとき
楽しいとき…それは、はた織りして裁縫してつくった新しい服を、妻が着るとき
楽しいとき…それは、子どもたちがすくすくと大きく成長した姿をみるとき
楽しいとき…それは、雪の降る夜に、炙った酒かすを肴に一杯やりながら火にあたるとき
たのしいとき…それは、空っぽだった米びつに米が入って、たぶんひと月くらいは大丈夫だな!と思えるとき
たのしいとき…それは、朝起きてみたら、昨日まで咲いてなかった花が咲いているのを見つけたとき
たのしいとき…それは、なんとなく読んでた本の中に「あれ、この人オレそっくりじゃん」という人を見つけたとき
たのしいとき…それは、本を読むのにも飽きちゃったちょうどそのとき、よく知ってる友人が訪ねてきたとき
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……まさに“我とひとしき人”を書の中に見つけた思い。作者は幕末の歌人、橘曙覧(たちばなのあけみ)。これは『独楽吟(どくらくぎん)』というタイトルのついた連作52首の一部。明治期にこれを読んだ正岡子規もびっくりして、源実朝以降の最高の歌人!と褒めちぎったそうだ。


でもって、ちょっとカッコ悪いのは、私が偶然これをみつけた“書”が、歌集などの趣・風情に満ちた類の書物ではなく、早稲田中学の過去の入試問題だったことだ……小学生が受けたテストを読んで泣いたワケだな私は。

私とともにささやかな幸福の涙をもっと流したい方は、こちらへどうぞ。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/6354/DOKUSYOYOTEKI/DOKURAKUGIN.htm>。
さあ御一緒に全52首で、Let’sウルウル!