リチャード・ギアの来日記者会見

Tuduki2005-03-28

Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』のPRのために来日したリチャード・ギア。特に好きな俳優でもないけれど、記者会見をなんとなく見に行ってきた。取材陣はぎっしり満員でした。以下はリチャード・ギアの回答のすべて。


Q:まずは御挨拶を!
A:初めて日本に来たのは25年前でした(注:公式な来日は7回目とか)。そのときはこんなにカメラはいなかったよ(笑)。25年前じゃあ、今日来た取材陣の中にも生まれてない方々もいるよね(笑)。ふだんはまず東京に来て取材を受けて、それから京都観光に行くのだけれど、それだと時差ボケの頭でインタビューに答えなくちゃならなくて大変なので、今回はまず京都を訪れて、時差ボケを解消してから東京にやってきました。

Q:ダンス・レッスンが大変だったと思うが、撮影後の今も、無意識にステップを踏んだり背筋がピシッとするような、ダンスで学んだことが身体に染みついてますか? それともすべてリセットしましたか?
A:13歳のときに初めて社交ダンスを踊って以来、ずっとやったことがなかった。よくあるパターンだけれど、自分より背が高い女の子と踊るときには傷ついたものだ。撮影3ヶ月前からリハーサル、撮影が始まってからも特訓を続け、計5ヶ月間、ダンスの練習をしました。最初はひどかった…だんだん上手くなる過程は、映画の中の私そのものだ。最後のコンテストで踊るシーンを観て、自分でも「まあまあ上手くなったなぁ、結構ヤルじゃないか」と思いましたよ。じつは私の撮影中に、妻がこっそりダンスを習っていたんだ。じつは忙しくて結婚式をしていなかったので、撮影終了後に、友人や親戚を集めて結婚パーティーを催したんだが……素晴らしかったよ。妻が突然「踊りましょう」と言いだして、スポットライトが僕たちだけに当たって……僕が映画で習ったとおりに踊り出すと、妻がちゃんとついてくるんで驚いたよ。本当に素晴らしかった。(注:通訳の戸田センセイはパーティーに招かれて、これを直に見たそうです。「いっつも夫婦で踊っているのかと思ってました」と言ってました)

Q:リメイクということでの苦労は?
A:(この質問だけ監督のピーター・チェルソムが答えました)オリジナル版に近い、忠実だという自負はある。しかし映画にかけたフィルターはちがう。オリジナルと差をつけようとは思わなかったが、主人公の設定を変えた。ハリウッド版は裕福だ。これは、紙の上でパーフェクトな人生(=経歴や栄誉をひとつひとつ書き出していけば、申し分ないと思える人生…という意味)だとしても「欠けているもの」がある…ということを強調するためだ。

Q:役所広司のオリジナルの演技をどう思うか? また彼と共演するならどんな役がいい?
A:「役所サン・イズ・パーフェクト!」あれ以上の演技はない。彼の演技は微妙でシンプルだ。“シンプル”というのは一番大事なことで、それは“奥深い”ということでもある。監督も答えたように、オリジナル版の作品自体がパーフェクトだったので、我々はアメリカ文化のフィルターにかけること以外にやることがなかった。結局それがオリジナル版との違いになった。我々は「中年男性の危機」をテーマにしたくはなかった。そこで主人公の設定を変えた(注:オリジナル版はしがないボタン会社のしがない経理課長だが、ハリウッド版は遺言状作成専門の弁護士でリッチ)。主人公の仕事は人生を項目化・リスト化することで、そういう見方で人生をとらえるから、ダンスとの出会いも「ヒロインに惹かれたから」と項目として考えるんだ。だがやがて成長して、自らの枠を広げていく…つまりハリウッド版のテーマは、中年男性だけでなく、すべての人間に普遍的なテーマなんだ。もうひとつ、アメリカ版では「結婚」に強くフォーカスをあてた。S・サランドンが演じる妻は、いきいきと働いて自立している。日本版の妻とはそこがちがう。夫婦間のコミュニケーション不足が、ことの問題ではないんだ。

Q:この映画のキャッチフレーズは「幸せに飽きたら、ダンスを習おう。」だが、あなたが幸せに飽きたら、ダンス以外だったら、なにをしますか?
A:まったく同じ質問を午前中にも受けたよ(笑)。私は現在、幸せに満ち溢れているが、飽きることはありません。「飽きる」というのはよくない言葉だし、これはそういう映画じゃない。そのコピーは観客をmislead(誤った方向へ導くこと)していると思う(笑)。だいたい私はそのコピーをapprove(認める)してないよ。(注:配給はGAGAです)

Q:それでは、幸せの秘訣は?
A:子どもはなにをやっても飽きない。けれど、大人になると飽きることを覚える。子どもの気持ちに戻るのが大切だと思う。

Q:映画を観て感化されて、ダンスを始める人たちにアドバイスを!
A:監督と一緒にダンス教室を開校すればよかった。そうすればリッチになれたのに(笑)。映画のために、N.Y.のいろいろなダンス教室に通った。N.Y.郊外の小さな町の教室では、真っ赤に髪を染めた85歳のロシア人のお婆さんが先生だった(注:ダンスの先生はロシア系が多いそうです)。生徒は3人いたが、ひとりはインド人の男性だった。見るからに場違いで、女性に触れるのも怖そうな感じでガチガチだった。しばらくして彼と話すようになって、どうしてダンス教室に来たのか訊いてみたら、彼はドクターで「ある日突然、なぜかダンスを習いたくなった」のだそうだ。最初はものすごく下手で、その後もあまり上達しなかったけれど、ダンスに慣れてきた彼は、練習が始まるのがいつも待ち遠しそうだったし、練習中もとても幸福そうだったよ。


……こうして文字にしてみると、質問にちゃんと答えてないことがわかるなぁ。
でもまあオリジナル版をアメリカ人ならどう解釈するのかが判って(←私にはオリジナル版のほうも「夫婦」にフォーカスあてているように見えるのだが)興味深かった。また、職業を単に「リッチな弁護士」ではなく「遺言状を作成する弁護士」にした理由が、人生をリスト化する〜つまり紙の上に記された項目で人生を判断する…だけでは、大切なモノが見えなくなるのだということを暗示するためだったと判ったので、行った甲斐はあった。
配給会社のつくったキャッチコピーに明確にNO!と宣言したことも、GAGAのスタッフの困り顔が目に浮かぶようで笑えたし。

※私の試写感想は2月8日に書きました。http://d.hatena.ne.jp/Tuduki/20050208 役に立たないと思うけれど、興味のある方は御高覧いただければ幸いです。