電車に閉じこめられた

ヤボ用で新宿三丁目から乗り込んだ都営新宿線が、曙橋を出てまもなく突然停止した。「お母さん、なんで電車止まっちゃったの?」「ぼうや、電車にも信号があるのよ」「こんな深いトンネルの中にも信号あるの? スッゲーッ!」 微笑ましい小学生母子の会話からのち、まさか1時間半も車内に閉じこめられたままになるとは……
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050218it12.htm
私はちょうどこの電車に乗り合わせていたのだ。


……という書き出しで、早寝しすぎたせいで早起きしすぎた週末の早朝にそのときの記録を書いてみたのだが、ドキュメント調にしたら尋常でなく文章が長くなってしまったうえに、書いてる本人が既にもう飽きてしまった感じがよく出ていたもんで、記すのをやめた。やっぱニュースは新しいウチに出さないとダメだな…と反省しきり。腰痛でもなんでもパソコンの前にたどりついた時点でさっさと書くべきだった。……しかも腰はいまなお痛い。

とりあえず印象深かったことだけ箇条書きすると……
●ほとんどすべての乗客は落ち着いていた。まあ飛行機が故障すれば墜落しちゃうけど、地下鉄が故障したって地中に埋まったりはしないもんな。読書・携帯いじり・睡眠などで静かに時をつぶしていた。珍しがって先頭車両と最後尾を行ったり来たりするのは私だけだった(あのとき空いてる席に座っておけば腰痛にならなかったものを)。

●運転士と車掌がいろいろ調べているが動きだす気配がない。すると「電源をいったんすべて切ってリセットします。数秒暗くなりますがご安心ください」とのアナウンス。電車ってMacみたいに強制終了→再起動で直るものなのかよ? 明かりが切られた車内は、ところどころ携帯画面の明かりが灯り、クリスマスの教会のように幻想的でした。もちろんMacとちがい、フリーズした電車が復活することはなかった。
●しだいに焦り出す客がちらほら。運転席のガラス戸をガンガン叩いて文句を言う50がらみの男性。「こういう場合のマニュアルを用意してないのかよ!」「いやちょっと本部と連絡をとってるんですが…コレ新しい型なもんで動かし方がよくわからないんですよ」 ……オイオイ、乗員が動かし方を把握してない車両なんかで運行するなよ。「動かし方のマニュアル本のことじゃなくてだなぁ、こういうトラブルの際のお客さんを誘導するマニュアルはないのかとオレは言ってんだよ!」 ……ごもっともです。だがそういうマニュアルはないようでした。
●また別のお客さんもやってきた。「スイマセン、急いでるんですけど降ろしてもらってもいいですかね、歩いていきたいんで……ダメですか、じゃあせめて携帯の電波の届くところまで動かしてもらえませんか」 ……この、せめて携帯の使えるところまで移動してくれ…と訴えるお客さんというのは複数名見られた。動かないから立ち往生しているんだし、少しずつでも動くんなら駅まで行かずに電波の届くところまでで動くのをやめる理由はないのに。あわててるんだな皆さん。
●応援車両を最後尾に連結し、押して走らせることになった。だがブレーキもかかっていた車両8両編成は押すには重すぎたようで、徐行しながらガガガガといやな音がする。そして時おりズン!と衝撃。私は応援車両が押している現場を最後尾で見ていたからわかるが、あの“ズン!”は無理矢理押された最後尾車両が浮いてしまい(わずかだろうけれど)、それが落ちたときの音だ。床下から腹に衝撃がひびいたもの。その衝撃で車掌席の外側のドアが開いたのもビックリしたが、「連結部が歪んでます、危険です」と乗員が連絡とってるのに、それでも徐行運転を続けさせようと試みる電話(?)の向こう側の声に、「もしかしたら脱線すんじゃねえか」と、そこではじめて私は本当に怖くなった。
●結局、徐行運転はあきらめ乗客はおろされることになった。……当然だよ。市ヶ谷駅の手前はカーブで、わずかだけど斜めにふられている。あそこを徐行して車両が浮いたまま押されたら本当に脱線してたかも知れぬ。で、先頭車両へ再び向かうと、そのアタマ1/4くらいだけが、ラッシュ時のような状態となっていた。市ヶ谷駅まで約100m、感度のいい携帯が繋がり始めたようで、一歩二歩でも駅に近づいて電波を拾おうと懸命な人々の群れだった。


……いかん。箇条書きでもそこそこ長くなってしまった。先に述べたようにもはや旬のニュースでもないのでここでやめよう。まあニュースの価値はもはやないとしても、私個人としては地下鉄に閉じこめられ、線路の上を歩いて帰ってくるという貴重な体験ができたのはよかったと思う。カメラを持ち合わせてなかったのだけが悔しいが。
“よかった”といえば、電車に乗る前に放尿しといたのも本当によかった。乗っちゃえば降りる駅まで10分弱だから我慢しようかとも思っていたので、もし我慢したまま乗り込んでたら…と想像すると心底ゾッとしましたよ。