うちのお袋は訛っている

Tuduki2005-01-23

私の母親は宮城県出身だ。
といってもいまプロ野球の話題で盛り上がる“杜の都”仙台ではなく、仙台から遠く北上した、ローカル鉄道マニアには知られる「くりはら田園鉄道」が最寄りの路線。見渡す限り田園そして名峰(と親は言う)栗駒山〈標高1628m〉が眺められる、静かなよいところだ。……と、まとめてしまえば波風は立つまいが、首都圏で生まれ育った我々にとっては、あそこで10代の多感な思春期を過ごすのはちょっと…と絶句せざるを得ない心境であることは正直に申告したい。(でも、ちょっと滞在するにはとてもいいところですよ。…と思ってしまう感覚も首都圏で育った者の身勝手な考え方だよなとひとりジレンマ)
結婚を機に横浜へ移り住んだお袋は、既に40年以上を横浜で過ごしているのだが、旦那(私の親父)も同郷であったためにことばが標準語化されていない。結婚10年を過ぎたウチのヨメさんが「会話の半分しか判らない」とお手上げなほど、いまだにふたりの日常会話は出身地の宮城県栗原郡のことばだ。(ところが本人達は、すっかりヨコハマ化して標準語を話しているつもりだったことが先日判明したのだが……それはまた別のお話)

まあそれはいい。地方文化が消失して均質化するのを憂える自分(←これも首都圏野郎の身勝手な考え方かもしれないけど)にとっては、私のルーツの痕跡が日常にある暮らしは、子どものときからイヤではなかった。ウチのお母さんは、学校で習う言葉や友だちのお母さんとはちがう言葉を話すぞ…と思ってもそれが特に恥ずかしいとは感じなかったし。
ただ、だからといって親の話す言語を身につけるワケにはいかないので、親の話す方言や訛をみんなの話す標準語に“翻訳”する作業を無意識のうちにしてきたワケだが……たまに翻訳漏れした言葉があったことに気づくことがある。

部屋の天井から吊される電灯。私は、あれの大きい方の電球を「ライト(英語のlight)」といい、小さい方の電球を「ジョイヤット(英語のjoyatt)」と呼ぶのだと、ずっと思いこんでいた。

「ジョイヤット(joyatt)」なんて単語がこの世に存在せず、それが「常夜灯(じょうやとう)」のことだったのだ…と気づいたのは、実家を離れて8年を経た、33歳のときだった。
「常夜灯」という単語はもちろん既に知っていたが、発声したことがなかったために、日本語の“じょうやとう”=お袋のいう“ジョイヤット”であるとは、まったく気づかなかったのだ。まさに「ひとり『声に出して読みたい日本語』状態」。スーパーの電気器具売り場でその間違いに気づいた瞬間、可笑しいやら情けないやらで笑いが止まらなかった。

私のボキャブラリーのなかにはまだ、いまだに発覚しないまま不発弾のように眠り続ける“翻訳漏れ”の言葉があるにちがいない。もし、またいずれ、そんな翻訳漏れの言葉に気がついて、そのときには既にお袋が他界していたりしたら……笑いながら大泣きするんだろうなオレ。

※写真はjoyatt(実物)